大きな変革期を迎える物流業界

 2019年に労働基準法が改正され、運送業界は2024年4月に時間外労働の上限規制が導入される。具体的には、時間外労働は月80時間、年間にして960時間以上は働かせてはいけないということになる。今回の改正のポイントは単に時間外労働に上限規制が設けられたというだけでなく、罰則付きの改正であるということだ。違反をすれば、6か月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金が科されることになる。このため現在、業界では、長時間労働を抑える動きが本格化している。 

 ただ、ことはそう簡単ではない。中小零細が9割を占める業界にあって、荷主主導の取引が圧倒的多数で、運送事業者側でなかなか主導権をもって進められないというのが実情だ。最も顕著なのが、手待ち時間である。荷物を下ろすために待たされる、あるいは荷物を積み込むために待たされる時間で、これがドライバーの長時間労働を引き起こす大きな要因となっているのだ。加えて、渋滞などの交通事情もあり、これらの改善は事業者の自助努力では正直難しいというのが現状だといえる。

 こうした事情があるにもかかわらず、3年後には否応なく規制がかかることになるので、各事業者の危機感は相当なものである。業界では、標準的運賃を国土交通大臣が告示するなど、国を挙げて対応を急ぐが、コロナ禍でそれどころではなく、なかなか進んでいない。刻一刻と近づく時間外労働の上限規制導入に、何もできずに右往左往する事業者や対応できずに途方に暮れる事業者の姿も目立ってきている。今後、行政の取り締まりが強化されていけば、立ちいかなくなる事業者は否応なく増加することが考えられる。長きにわたって、規制緩和による激しい運賃競争が行われてきた業界だが、今度はコンプライアンスを守るための生存競争が展開されていくことになる。これは下請けや孫請けで運営している中小零細にとっては相当困難である。

 最近は事業承継ができずに廃業したり、身売りしたりするケースが散見されるようになってきたが、昔とはやり方が違うために事業継続が難しくなったか、あるいは先々に不安を感じて継続を断念しているためである。平成2年の物流2法の施行で、新規参入が相次ぎ、4万社が6万社へと1.5倍に増えた運送業界だが、今後は、減少していくことが確実視されており、本当の意味での淘汰が始まるといえるのかもしれない。

 荷主側にしてみれば、これまでは安価で使い勝手のいい運送事業者を選べていたかもしれないが、これからはそれも難しくなる可能性が高いといえる。強い立場で選び放題だった時代が終わり、逆に運送事業者から選ばれるようになる時代がもうそこまで来ているのではないか。

 今はまだ運賃は下げ止まったままであるが、3年後を見据え、確実に上がってくるはずだ。標準的運賃が効力を発揮する、いわば日の目を見る日が遠からずやってくるであろう。そうならなければ業界が成り立たなくなるからだ。運賃は上がらないと思っている荷主や安くやってもら所を探している荷主にとっては今後、物流における深刻な課題を抱えることになるのかもしれない。

 物流業界は今、大きな変革期を迎えている。

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