物流現場でもコロナが身近に

 新型コロナウイルスが物流現場にも徐々に浸食してきている。ドライバーという仕事は、トラックの運転から荷積みや荷下ろしまで、基本的に一人で行うことが多い。そのため、コロナ禍であっても、感染しにくく、これまで比較的安全な職種とされてきた。

 しかしながら、そんな状況に異変が生じてきている。その大きな原因が、家族間や友人間での感染の拡大である。

 東京都内の事業者に同社に勤務するドライバーから一本の電話が入った。濃厚接触者になったとの一報だった。そのドライバーの奥さんがPCR検査で陽性反応を示した。職場での感染だったという。

 その結果、そのドライバーも濃厚接触者となってしまった。

 元気でも濃厚接触者となっては出社しなさいとは言えない。自宅待機を命ずるしか他に手はない。とはいえ、そのドライバーがやるべきはずであった仕事は誰かがこなさなければならない。ただでさえ、人手不足の状況にある同社にとって、やりくりは容易ではない。社長自身も駆り出されての対応となったが、幸い、ドライバーは陰性でコロナ感染は免れ、数日後には職場に戻り、事なきを得た。

 しかし、「もし、コロナ感染し、それが社内で感染が広まったらと考えると、とても恐ろしい」と、同社社長は胸をなでおろしていた。

 一方同じく、都内の事業者では、濃厚接触者ではなく、実際にコロナ感染者が出てしまったという。子供がウイルスをもらってきて、それが移るという家族間での感染だったが、同社では、それから3日間、立て続けにコロナ感染者がでたという。

 最初こそ、家族間での感染だったが、後の2件は社内感染で、同社は一気に3人が抜ける事態になる。

 とはいえ、仕事がなくなるわけではない。残されたものがその穴を埋めなければいけない。現場の負担は増すばかりで、疲弊が目に見えてわかる。どうにかしないと、現場が持たない。同社では、そんな状況に追い込まれたという。

 これ以上は難しいということで、荷主と交渉し、理解をしてもらい、仕事をセーブすることになった。それによって、現場を多少の落ち着きを取り戻したという。コロナ感染も3日間で終わり、それ以降は陽性者も出ずに済んだ。感染者らも重篤化せずに、療養を終えて、順次戻ってきた。

 同社はギリギリのところで持ちこたえたといえるが、同社社長には心配なことがある。荷主は仕方がないと理解を示してくれたが、迷惑を掛けたことには変わりはなく、仕事をセーブしたため、仕事量自体は減少している。その仕事がこれまで通り戻ってくるのか。荷主がリスクヘッジに動けば、同社の仕事はそのままセーブされることも想定される。

 同社長は、「これからが正念場」と気を引き締めている。

 中小零細が圧倒的に多い運送業界である上、ドライバー不足という大きな問題も抱えている。

 必然的に人的、資金的に余裕のないところが多い。コロナ感染あるいは濃厚接触で、人員が割かれるのは痛手である。それが、1人ならまだしも、2人、3人と複数が抜けるということは、痛手が大きくなるばかりで、特に零細になればなるほど、ドライバー1人への依存度が高くなるわけで、その痛手は大きくなる。

 「コロナの現状だから感染者がいつでてもおかしくはない」としながらも、「我々は仕方がないでは済まされない。それによって仕事に穴をあければ、荷主の信用を失ってしまう」と、同社長は苦しい胸の内を吐露する。

 エッシェンシャルワーカーとして、経済の血流を止めることなく、最後の砦として輸送するトラックの現場でも、徐々にコロナが浸食してきており、予断を許さない状況に陥っている。

 

 

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