長距離ドライバーという仕事の未来

 長距離運行に携わっている若者やこれから携わろうとしている人には酷な話になるかもしれないが、長距離運転という仕事はいずれなくなり、そういう仕事もあったなと、昔を振り返る、そんな時代がやって来るのは必至である。

 「家に帰る日は月に数える程度で、あとはトラックで全国を駆け回っている」。長距離トラックのドライバーはかつて、これが当たり前といわれる時代があった。映画で「トラック野郎」が隆盛を極めていた昭和50年代からバブルがはじける平成の頭くらいまでは、多くの若者がトラックにあこがれ、運送業界に足を踏み入れた。その中には、長距離トラックに従事するドライバーも数多くいた。

 しかし、世の中は、経済的規制緩和が進む一方で、社会的規制が強化されるようになり、法令違反が許されない時代へと移り変わっていく。

 トラックドライバーには、一般に適用される労働基準法に加え、独自に守るべき改善基準告示なるものが存在する。例えば、労働時間と休憩時間を合わせた拘束時間は、原則1日13時間以内で、延長する場合でも1日16時間で、15時間を超えてもいい回数は週に2回以内であったり、月の拘束時間は原則293時間であったり、また、運転時間は2日平均で9時間以内、2週間ごとの平均で44時間以内、さらに、4時間運転すると、30分以上の休憩が必要になったりするなど、細かく規定されている。

 改善基準告示は1989年平成元年に労働大臣の告示という形で出されたが、活発化する経済活動の中で、その後もしばらくは、ほとんど機能しないままの状態で推移していた。

 バブルがはじけ、景気が悪化しはじめたころから流れは変わり、コンプライアンスが求められるようになったという経緯がある。そしていま、業界では長時間労働の改善に、行政を巻き込んで取り組んでいるのが実情だ。

 長距離輸送という仕事は、その重要性はあるとはいえ、そもそも違反の上に成り立っていた仕事でもある。そこに今、メスが入ろうとしている。大手運送会社は、その対策として、ツーマン運行や中継輸送をすでに始めている。

 ツーマンは、その名の通り2人のドライバーが交代で運転して長距離運行を行うというものだが、これよりも、実用性の高いのが中継輸送である。中継輸送は、例えば、東京から大阪に荷物を配送する場合、これまで、東京から出発して大阪で荷を下ろして戻ってくるというのが一連の業務だったが、仮に中間地点の愛知県に拠点を構えることで、そこで荷(トラック)を積み替えて(乗り換えて)また戻ってくることができる。一人のドライバーがこれまで大阪まで往復していたのが、愛知県への往復で済んでしまうということだ。これにより法令を遵守できることになる。

 また、高速道における幹線輸送は、自動化が進んでいる。すでに新東名で実証実験が行われおり、ドライバー不在の隊列走行が技術的には可能なところまで来ている。これが、実用化されれば、幹線輸送はドライバーが必要なくなることになる。

 まだ、中継輸送やこうした自動化が本格的になっていないので、長距離運行は今もまだ、法令を守れない中でも、重要な役割を果たしているが、法令遵守が可能な中継輸送がもっと表に出てくれば、法令違反は確実に取り締まりの対象となってくる。そうなると、自ずと改善基準告示を守れない長距離運行はできなくなってくるというのが必然的だといえる。

 今後、改善基準告示が厳しくなっていくことはあっても、緩和されることはまず考えられない。これからも長距離運行は法令遵守が難しいとなると、ますますコンプライアンスが求められる中で、遂行していくのは困難になっていく。

 「いろんなところに行けていろんな風景に出会えて楽しい」。そんな魅力もある長距離ドライバーという仕事だが、将来を考えると、斜陽である仕事だと言わざるを得ないのが実情である。

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